おこめの話

こちらは、店主がお米の話・・・ときにはお米とは関係ないお話を書いていきます。

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丸餅、切り餅の違いは江戸時代から


全国の庶民の間に正月の雑煮が普及したのはいつからなのか? 庶民的な家庭料理を記録した書物は少なく、なかなか特定しづらい問題ではありますが、江戸後期の風俗をくわしく記した貴重な資料『守貞漫稿』には、以下のような解説があります。


「元旦、二日、三日 諸国ともに雑煮を食ふ」「大坂の雑煮は味噌仕立てなり。五文取りばかりの丸餅を焼き、これを加ふ。小芋、焼豆腐、大根、乾鮑、大略この五種を味噌汁にて製す」「江戸は切餅を焼き、小松菜を加へ、鰹節を用ひし醤油の煮だしなり」


 ということは、この頃もう雑煮は全国的に食べられていて、東西の違いがはっきりと分かれていたわけです。


神様に供えた地元の産物を使う雑煮には、当然ながら地域色が強く出ます。もっとも分かりやすいのが、餅の形。日本列島の地図に北陸地方あたりから関ヶ原を通って和歌山県新宮を結ぶラインを引いてみると、それを分岐点に西側は丸餅、東は四角い切り餅の文化圏です。


 搗いた餅を1個ずつ成形する丸餅にくらべて、一気にのして少しかたくなったら切り分けるほうが、ずっと時短で手間がかからない。「敵をのす」という意味もかけた切り餅は将軍の住む江戸で生まれ、東日本に普及しました。丸餅が公家文化、切り餅が武家文化を表するといわれるゆえんです。丸餅は煮る、切り餅は焼くことが多いものの、例外もたくさんあって一概ではありません。



地域色に富んだだしのとり方と汁の味つけ


 次にだしの種類。鰹だし、鰹昆布だしが主流ですが、京都は昆布だけでだしをとるのが特徴。変わったところでは秋田県男鹿の焼きフグ、宮城県仙台の焼きハゼ、広島県福山の焼きアナゴ、福岡県や長崎県の干しアゴ(トビウオ)、石川県や佐賀県のスルメ、鹿児島県の焼きエビなど、特殊な海産物でだしをとる土地もあります。


 焼きハゼは現在、貴重な高級食材となり、仙台の市場に出るのは正月前だけ。一晩水につけたのち、ゆっくりと弱火で煮ただしは、このうえなく香り高いそうです。だしをとったハゼは、椀からはみだす豪快な尾頭付きで雑煮の具になり、その上にはイクラが飾られます。全国でも珍しい雑煮だといえるでしょう。


 また、鹿児島県の焼きエビは、薩摩藩主の島津家が食べていた「エビ雑煮」が庶民に広まったといわれます。炭火で乾燥させた焼きエビに干し椎茸と鰹節も加え、3種のうま味を重ねた濃いだしに、子孫繁栄を象徴する里芋、まめまめしく働けますようにと、豆モヤシが入るのがユニークです。


 

味つけは、京都を中心に大阪、奈良、兵庫、和歌山、香川、徳島、福井が味噌汁。福井県は赤味噌で、そのほかは甘い白味噌です。それ以外の地域、つまり東日本と山陰、山陽、四国西部と九州は、醤油、塩で味つけするすまし汁です。ざっくり分類すると、武家の影響力が強かった土地はすまし汁文化。武士が「めでたさに味噌をつける」と忌み嫌ったのがその理由です。

ぜひ、色んな味で変化を楽しんではどうですか